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静岡家庭裁判所 平成7年(少)944号 決定 1995年9月19日

少年 Y・U(昭55.2.3生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

第1  少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、平成7年1月18日午前10時15分ころ、静岡県清水市○○×××番地の×付近道路において、第一種原動機付自転車を運転した。

第2  少年は、小学生のころから登校拒否や家庭内暴力などの問題行動を繰り返していたものであるが、中学校3年在学中の平成6年5月ころから、学校にも行かず、友人宅を転々とするなどして、不良仲間と深夜徘徊、無断外泊、不純異性交遊等を繰り返したり、暴力団関係者から暴力団のバッヂを譲り受けたりしたほか、家庭内においても、自分の思いどおりにならないと、自宅の壁や窓ガラスを叩き壊したり、飼い犬を虐待するなどし、更には家族に対しても暴力を加え、もって、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当の理由がなく家に寄りつかず、犯罪性のある人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、少年の性格、環境に照らして、暴行・傷害、器物損壊等の罪を犯すおそれがある。

第3  少年は、平成7年3月3日に前記第2のぐ犯事件により在宅試験観察に付された後、中学校を卒業し、同月下旬に就職したものの、同年5月下旬に離職してからは、実母の指導に従わず、不良交遊、深夜徘徊、無断外泊を繰り返すようになり、同年7月ころには不良仲間と共にシンナーを2回吸入し、同年7月26日には些細なことで実母と口論となった際に自宅の窓ガラスを損壊し、同年8月6日には実母と口論になった際に実母の顔面を殴打したり同女の身体を足蹴にするなどの暴行を加え、更に同月20日には実母と喧嘩した後に実母の飼い猫に当たり散らし、これを虐待して死に至らしめたものであり、もって、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、犯罪性のある人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、このまま放置すれば、その性格、環境に照らして、将来、暴行・傷害、器物損壊、毒物及び劇物取締法違反等の罪を犯すおそれがある。

(法令の適用)

第1の事実(無免許運転)につき、道路交通法118条1項1号、64条

第2の事実(ぐ犯)につき、   少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ハ、ニ

第3の事実(ぐ犯)につき、   少年法3条1項3号本文、同号イ、ハ、ニ

(なお、付言するに、審判の対象としてのぐ犯事実をどの時点で画するかについては、手続の明確性の観点に加えて、家庭裁判所における事件の受理は、単に形式的な事件係属の発生を意味するものではなく、実質的な保護の開始を意味するものであって、少年としても、かかる家庭裁判所の保護下においては新たな人格態度が期待されることから、事件送致(受理)時を基準とすべきである。

本件第2及び第3のぐ犯事件は、基本的には少年の同に問題性に由来するものではあるが、本件第3のぐ犯事件は、少年が、本件第2のぐ犯事件により在宅試験観察に付された後、中学校を卒業し、約2か月間の就労生活を経た後の離職を契機とするものであって、本件第2のぐ犯事件の送致後に、従前とは異なる状況の下で生じたぐ犯事由によって構成されている。そこで、当裁判所は、これらを包括して1個の非行事実として認定することはせず、2個の非行事実として認定した。)

(処遇の理由)

一  少年は、小学校低学年のころから登校拒否状態になり、小学校3年時には情緒障害児治療施設に入所したが、施設内でのいじめ等がきっかけとなって自分より弱い者に対する暴力などの問題行動を起こすようになり、施設を卒園した後も登校拒否や家庭内暴力などの問題行動を繰り返し、本件非行時に至っている。

二  少年の知能は劣域(IQ=70)にある。また、少年は、集中力や持続力が乏しい上、欲求不満耐性や家庭における感情統制力や抑制力が著しく弱く、家庭内で暴れることによって我を通そうとする行動様式が顕著である。

このような少年の問題点の根底には、生来の多動傾向のはか、幼少時から実父母の離婚問題等の家庭内葛藤を背景として実父母との情緒的交流が乏しかったことや、妹の出生によって実父母の愛情の喪失を感じたこと、更には、生育史上の問題から母性に乏しい上、仕事に追われている実母に対する強い愛情飢餓感や依存欲求などがあるものと思われ、少年の問題性には根深いものがある。

もっとも、少年は、本件第2のぐ犯事件により在宅試験観察に付された後、就労を体験し、仕事を通じて社会参加したいという意欲を持続しており、社会性に成長が認められる。

しかしながら、少年は、離職を契機として本件第3の非行に及んでおり、自己の欲求を暴力を用いてでも通そうとする少年の自己中心性や粗暴性、母子関係のこじれには依然として根強いものがある上、家庭内暴力の激しさや、少年が、暴力団関係の土木業者に採用され、暴力団に無防備に接近していることなどに鑑みると、少年の非行性は深刻であると言わねばならない。

また、少年の実母は、少年の言動に脅え、少年に対して監護指導を行うことが極めて困難な状態にある。

三  以上の事情を総合考慮すると、少年の健全な育成を期すためには、少年を矯正施設に収容し、じっくりと時間をかけて少年の情緒の安定を図るとともに社会性を育ててゆくことが必要であると考える。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 早川幸男)

編注 抗告審(東京高 平7(く)205号 平7.10.24抗告棄却決定)

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